「さのさ」
- 小夜更けて 裏の細道さのさで通る あれはたしかに主の声
- 呼ぶに呼ばれぬネ客の前 ほんにつとめはつらいもの
- 奥山で 一人米搗くあの水車 誰を待つやらくるくると くるかこぬかでネ日を送る やがて世に出てままとなる
- 梅干しは 酒も呑まぬに赤い顔 年もとらぬにしわよせて 元をただせばネ梅の花 鶯鳴かせたこともある
- あの花は 粋な花だよあら余所の花 あの花野山に咲くなれば 一枝手折りて寝床に挿し あの花散るまで眺めたい
- 花尽くし 山茶花桜に水仙か 寒中に咲くのは梅の花 牡丹芍薬ネ百合の花 あなたのことなら南天菊の花
- あの時は 別れが辛いと泣いたじゃないか 半年たたぬにこの始末 女心とネ秋の空 変わりやすいは人心
- それだから 僕が忠告したではないか 芸者の親切雪駄の裏金よ 金のある内はネチャラチャラと 金がなくなりゃ切れた中
- さし尽くし 毛虫ゃ毛でさす 蜂ゃ尻でさす 芸者おやまは金でさす 素人娘はネ義理でさす 家のおかかはただでさす
- 切れるなら 切れてみやんせそのままおかぬ 藁の人形に五寸釘 頭にろうそくネむねかがみ 稲荷さんへと丑の刻詣り
- 白鷺を 烏と言うたも無理はない 一羽の鳥でも二羽の鳥 葵の花でもネ赤く咲く 雪という字も墨で書く
- 朝顔の 蕾の花は筆の先 参らせ候も縁の端 思う垣根にネ登りつめ 今じゃ苦労の種をまく
- 白鳥の お稲荷様の仰せには 必ず妻子のある人と 二世の約束ネするじゃない 末は烏の泣き別れ
- あの花を 国の土産に一枚欲しや あげたい心はあるけれど 今は蕾でネあげられぬ 咲いたらあげます初枝を
- 幡随院の 長兵衛覚悟で風呂の中 虎も千里の藪の中 お染久松ネ蔵の中 わたしとあなたは深い仲
- 梅に惚れてもネ梅に惚れても 桜に惚れぬ 梅は寒に咲く寒さもいとわずに 四月半ばにネ咲くような そんな花にはわしゃ惚れぬ
- 親が貧苦でネ親が貧苦で 十四の年に 売られましたよこの都へ やがてうれしやネ名を替えて 主のお側で針仕事
- 鳥ならば 飛んで行きたや あの家の屋根へ 木の実かやの実食べてでも 焦がれて泣く声ネ聞かせたら よもや見捨てはなさるまい
- あなたそりゃ無理よ二三日ならば 辛抱もしようが 十日も二十日も三十日も 便りもせずにネいられましょか まして女心と秋の空
- 今切れて 何であなたを恨みましょう 至らぬわたしの身を恨む 縁と時節をネ待つならば 岩に打つ波また返す
- 松尽くし 松に唐松姫子松 広いお庭に五葉の松 門松立ててネ春を待つ わたしゃあなたの来るを待つ
- 今しばし 文もよこすな便りもするな 僕の勉強のじゃまになる やがて卒業のネ暁にゃ 天下晴れての妻にする
- 一年や 二年三年なんのその 君に心が変わらなきゃ 曽我の兄弟ネ十八年目に 本望遂げたじゃないかいな
- 今切れて 末に添うよな薬はないが 薬は互いの胸にある 辛抱しやんせネ稼がんせ 稼ぐに追い付く貧乏なし
- 惚れた時ゃ 金の茶釜もあるよに 言うたが来てみりゃ土瓶の欠けもない 山伏さんでもネあるまいし ほらを吹くのもほどがある
- 私らに 惚れ手があるなら枯木に花よ 焼いた魚が泳ぎ出す 絵に描いたる達磨さんにネ手足が生えて のこのこさいさい飛脚する
- その声で とかげ取るかよ山時鳥 人は見かけによらぬもの ほんにあなたはネ薊の花よ 見ればやさしや寄れば刺す
- 添うた時ゃさほどよいとは思わねど 度々重なる親切に 切るに切られぬネ仲となり 今じゃこちらから命がけ
- 紺の法被にネ紺の法被に入れ文字見やれ 火消し小頭と書いてある いくら火消しのネ頭でも 恋の炎は消さりょうか
- 主さんの 紺の法被の襟地の文字にゃ 消防の小頭と書いてある なんぼ火消しがネ役目でも 恋に燃え立つ火は消せぬ
- さのさ節 音頭取り目が取りくたぶれて 息も続かず声もかれました ここらあたりでネ品かえて ぼちぼちやろまいか時間まで
【静め歌】
- お十七は濁り川渡る 我が妻なれば 引抱えて越えるに 人さの妻じゃで見て笑うよ
- 人さの妻でも引抱えて越えやれ あの山陰に人さえなけにゃ この川越えて あの山陰で
- アー私ゃヨーお前さのナーヨー ソリャお前さの ままになる妻になるヨー
- ヤレ静めた 心じゃよ これも静めた 心じゃよ
- ヤレからしてヨ 他所たのむ この次からして 他所たのむ
【こもと受取歌】
- ヤレ御苦労 他所の殿 まずは御苦労 他所の殿
- ヤレでたさえも 御苦労じゃに おいでたさえも 御苦労じゃに
- ヤレ花をよな あつらえて 蕾の花を あつらえて
- ヤレ咲かせて 下された 見事に咲かせて 下された
- ヤレ御恩に 受けたぞえ ひとしお御恩に 受けたぞえ
- ヤレ恩とては 恩とては この恩とては 恩とては
- ヤレまいぞえ 草場まで 忘れまいぞえ 草場まで
【終り歌】
- ア目出度ヨー 目出度のナーヨ ソーリャ目出度のヨー 若松は 若松はヨー
- ア枝もヨー 栄えるナーヨ ソーリャ栄えるヨー 葉も繁る 葉も繁るヨー
- ア人がヨー 若松ナーヨ ソーリャ若松ヨー 様と云え お目出度ヤー
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